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岡山地方裁判所 平成元年(ワ)309号 判決

原告

岩本実

ほか一名

被告

福井博良

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、それぞれ金一五〇〇万円及びこれに対する昭和六三年七月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

次の交通事故(以下、本件事故という)が発生した。

(一) 発生日 昭和六三年七月二五日午前〇時二〇分ごろ

(二) 発生場所 大阪府堺市深井水池町四〇三―一先交差点

(三) 加害車 普通乗用自動車(番号 泉五九な六五二三)

(四) 右運転者 被告

(五) 被害車 原動機付自転車(川西市か六六三六)

(六) 右運転者 岩本隆志(以下、隆志という)

(七) 態様 右交差点において、隆志が右折中、被告が対向、直進してきて衝突し、これにより、隆志は胸部内臓破裂で当日死亡したもの。

2  責任原因

被告は、加害車の保有者として自動車損害賠償保障法三条の責任がある。

3  損害

隆志は、本件事故により、次の損害を受けた。

(一) 治療費 三万六五〇〇円

(二) 葬祭費 一〇〇万円

(三) 交通費 二万円

(四) 遺体運搬費 九万二九五〇円

(五) 逸失利益 五七六八万九六〇八円

隆志は、本件事故当時一九歳の健康な男子であり、その後四八年間は稼働可能で、得ることのできた年収は四七八万二三六〇円であるから、本件事故により隆志が失つた得べかりし利益の本件事故における現在価は、右収入から生活費としてその五〇パーセントを控除し、新ホフマン係数二四・一二六を用いて中間利息を控除すると五七六八万九六〇八円となる。

(六) 慰謝料 二〇〇〇万円

(七) 弁護士費用 二〇〇万円

4  損害の填補

原告は、自動車損害賠償責任保険から二五〇三万八八〇〇円の支払を受けた。

5  相続

原告らは、隆志の両親であり、他に隆志の相続人はいない。

よつて、原告らは、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条により、前記4の(一)ないし(七)の損害金合計八〇八三万九〇五八円から右填補額を控除した残額五五八〇万二五八円の各二分の一のうち、それぞれ一五〇〇万円及びこれに対する本件事故の日以後である昭和六三年七月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、(七)の加害車が被害車に対向して進行してきたことは否認し、その余の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は知らない。

4  同5の事実は認める。

三  抗弁

本件事故現場は、泉北高速鉄道の高架沿いの、信号機によつて交通整理の行われている交差点であり、原告は右高架沿いの片側二車線の中央寄り車線を時速四〇キロメートルで進行してきて、右信号機が青を示していることを確認し、進行を続けたところ、右交差点の手前の横断歩道のところで高架橋の影から赤いヘルメツトが見え、急制動をかけたが、右交差点を右折して、西進する被害車に衝突したものである。右交差点では、破線で通行区分がされ、右折西進車は、交差点の北寄り車線に入ることになつているところ、隆志は、加害車が進行してくる道路の見通しの悪い南寄り車線に入り、しかも一時停止や徐行をせず進行し、これは、いわば隆志の飛び出し行為というべく、被告は制限速度を守り、前方を注視して運転していたもので、本件事故を回避することは不可能であつたから、被告には過失はない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠

本件訴訟目録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の事実は、(七)の加害車が被害車に対向して進行してきたことを除き、当事者間に争いがない。

二  責任原因

請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

三  事故原因

原本の存在とその成立につき争いのない甲第六ないし第八号証、いずれも書き込み部分を除き撮影者、撮影年月日及び被写体に争いのない乙第一号証の一、二、第二号証並びに被告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、泉北高速鉄道深井駅の南西方向にあつて、中央に右鉄道の高架があり、この東北方向に走る高架を挟んで平行に各二車線の道路(被告進行の道路の幅員は外側線内六・九メートル、右二車線と高架部分を含めた幅は推定約二四・八メートル)があり、一方の道路は片側一車線でほぼ東西に通じ、この各道路が交差する交差点である。東西に走る道路(交差点の西側では外側線内五・五メートル)は右交差点に進入するまでの幅員に比べ、交差点内の部分は広くなつているように見えるが、東西への走行車はその北側を使用し、その南側は加害車の走行車線からの右折車が使用するように線引区分されている。(別紙図面参照)。

2  右東西に走る道路は、東から右交差点に進入する道路に対し、交差点から西部分はやや南西に寄つている。そして、現場の見通し状況を見ると、前認定のとおり中央に高架があつて、その脚柱と高架沿いに設置された金網によつて被告の進行方向からは前記交差点近くに到るまではその進行方向の右側は極めて見に難く、他方前記東西道路を東から進行してくるにも同様であつた。したがつて、東西道路の進行車が前記進行区分を守つて交差点の北側部分に入り、その左からくる車両の動静に注視しながら、一時停止はもとより慎重に行動すれば、その左側(被告がくる方向)の状況を判断できる位置関係にあり、他方前記交差点に直進する車両も信号の表示を厳守することはいうまでもなく、減速など緊急の事態を予想して、これを回避すべく期待されている現場状況であつた。

3  右交差点への被害車の進入経路は詳らかではないが、被告の主張によれば、被害車は右交差点を右折していたというのであるから、これが事実とすれば、被害車は原告の対向車線を南西に走つてきて、右交差点を右折したものと思われるが、それはともあれ、被害車は進入すべきではない右交差点の南部分(前記被告進行方向からの右折のための進入路)を同交差点より西の右東西道路に入るべく進行していた。他方加害車は、前記高架沿の道路を、南西方向から北東方向に、時速約四〇キロメートルで進行して、右交差点にさしかかつたが、当時右進行方向の信号は青であり、被告はこれを衝突地点より五八・五メートル手前で確認している。そこで被告はそのまま進行していたところ、右交差点に進入する手前三ないし四メートルのところで、右前方六・一メートルに被害車を発見し、急制動をかけたが、殆どそれと同時に被害車と衝突し、加害車はこの衝突地点から一三メートル先で停止し、隆志は加害車の下部に巻き込まれていた。

右認定の道路状況、見通し及び隆志と被告の各運転状況を総合すると、被告には、交差点の右部分が見えにくいことから、その方向からの飛び出し車などありうることを予測して、減速その他の措置をとらなかつた過失があり、隆志には路線を誤り(定められた路線に入れば、加害車の進行を確認しやすい)、かつ加害車の路線を横断する前には徐行あるいは一時停止をして、右路線を進行してくる車両の有無及びその動静を確認すべき義務があるところ、これを怠つた過失があり、これら双方の過失により本件事故が発生したものということができる。

四  損害

1  治療費 三万六五〇〇円

成立に争いのない甲第四号証によれば、隆志が本件事故により、治療費三万六五〇〇円を要したことが認められる。

2  葬儀費用 各五〇万円

前述のとおり、本件事故により隆志が死亡したことは当事者間に争いがなく、したがつて、隆志の両親である原告らにおいてその葬儀費用の支出を余儀なくされたことが認められ、この葬儀費用は一〇〇万円とするのが相当である。

3  逸失利益 四一一三万四四四一円

成立に争いのない甲第一号証と弁論の全趣旨によれば、隆志は、本件事故時は、満一九歳の健康な男子であつたことが認められるから、生存しておれば事故後四八年間は就労可能であつたものということができ、いわゆる賃金センサス昭和六三年第一巻第一表の男子労働者産業計、学歴計、年齢計によれば、隆志は右就労可能期間に平均して年収四五五万一〇〇〇円の収入を得ることができたものと認められ、そのうちの五〇パーセントは同人の生活費に消費されるものとみるのが相当である。そこで、右収入からこの生活費を控除し、さらにライプニツツ方式により中間利息を控除すると、本件事故により隆志が失つた得べかりし利益は、四一一三万四四四一円となる。

4  慰謝料 三二〇万円

隆志が本件事故により死亡したことによつて受けた精神苦痛に対する慰謝料は、前認定の事故の内容、後記認定の過失割合など諸般の事情を総合すると、三二〇万円とするのが相当である。

5  原告らが損害項目として主張する交通費、遺体運搬費については、これを認めうる証拠はない。

五  過失相殺

本件事故が、被告と隆志の両者の過失により発生したものであることは、前三認定のとおりであり、そこで認定した事故現場の道路状況、道路区分、時間、具体的に各運転行為などを総合すると、被告の右過失の割合は二割、隆志の右過失の割合は八割であるというべきである。

そうすると、被告に請求できる隆志の損害は、前四の1及び3の合計四一一七万九四一円の二割である八二三万四一八八円(円未満切捨て)と前四の4の慰謝料三二〇万円の総計一一四三万四一八八円であり、原告らの損害は前四の2の各五〇万円の二割に当たる各一〇万円である。

六  相続

請求原因5の事実は、当事者間に争いがないから、原告らは、右隆志の被告に対する損害賠償債権を各二分の一宛(各五七一万七〇九四円)相続したものである。したがつて、原告らの被告に対して請求できる損害賠償額は、前記同人等の固有のもの(各一〇万円)を含めて各五八一万七〇九四円となる。

七  損害の填補

弁論の全趣旨によれば、請求原因4の事実が認められ、この事実によれば、原告らは、既にそれぞれ右損害賠償金全額の填補を受けているものといわなければならない。

八  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らが本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その報酬等の約定をしていることは認められるが、右のとおり、原告らはもはや被告に対して、本件事故による損害賠償として請求しうるものはないのであるから、原告らが、右訴訟代理人に支払うべき報酬等をもつて、これが本件事故と相当因果関係のある損害ということはできない。

九  叙述のとおり、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩谷憲一)

別紙 〈省略〉

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